概要
相続税・贈与税の申告実務においてなぜ非上場株式の評価は厄介なのか?
税務の最前線で培われた豊富な申告経験から、誤認や誤解の多い財産をめぐる多様な疑問点を解消し、困難な事象に耐え得る卓越した知見とノウハウを披瀝。
目次
第1章 非上場株式の財産としての厄介さ
~非上場株式の性格とその問題点~
Ⅰ 会社の業績や資産の含み損益が株価に与える影響
Ⅱ 事業の性格上必要な所有資産の内容が株価に与える影響
Ⅲ 上場株式に比べて流動性が低く、基本的に換金が困難であること
Ⅳ 上場株式や土地などと比較して物納を行うことが極めて困難であること
Ⅴ 議決権の分散により、支配の維持やスムーズな事業承継が困難になる危険性
第2章 非上場株式の評価方法の改正の歴史~改正趣旨別の分析
Ⅰ 改正の歴史をその背景にある狙いや趣旨ごとに区分して通覧する試み
Ⅱ 周辺の法制度の改正・創設などに対応したもの
Ⅲ 社会情勢の変化に伴う会社実態の変容に対応したもの
Ⅳ 景気対策・経済対策の観点からの事業承継上の要請に対応したもの
Ⅴ 経済実態を無視した節税対策を封じ、これを無効化する趣旨により行われたもの
第3章 非上場株式所有者の相続対策において直面せざるを得ない問題点
Ⅰ 生前贈与を行う際の事前の株価予測の困難性
Ⅱ 2種以上の兼業会社における評価額制御の困難性
Ⅲ 役員所有の土地を会社が借り受けている場合に留意する必要のある論点
Ⅳ 土地保有・株式等保有特定会社制度による対策実行上の制限
Ⅴ 役員・会社間の長期性の債権・債務がある場合に留意する必要のある論点
第4章 非上場株式の評価上、必ず押さえておきたい論点・間違えやすい論点
Ⅰ 総論
Ⅱ 類似業種比準価額
Ⅲ 純資産価額
〔参考資料1〕財産評価基本通達178~196
〔参考資料2〕日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)
〔参考資料3〕特定非常災害発生日以後に相続等により取得した財産の評価について(法令解釈通達)
著者紹介
田川 嘉朗(たがわ・よしろう)
南青山資産税研究所所長・税理士
・1961年東京生まれ。1983年から1989年まで、美術・書道関係の出版社に勤務し、美術雑誌の編集長などを歴任。そこでは、日本画家・陶芸家・美術評論家・小説家・経済人など、多くの著名人と接点を持ち、一流の人間ほど謙虚であり、常に探求する姿勢を失わないことを学んだ。
・ 1990 年から 2020 年まで、資産税専門の準大手税理士法人(その前身となった個人事務所を含む)に勤務し、代表社員・統括パートナーとして、数多くの相続税・贈与税・譲渡所得の申告業務、対策業務等に関与。この30年の間に学んだことのうち、一番大きいのは、力量が拮抗している者同士が敵味方になって対峙する時、刃を交えながらも、互いに相手を尊重する気持ちが生じ得ることである(切れ者の課税庁職員との攻防を何度か体験して)。さらに、30代前半の頃、東京国税局資料調査課(料調)による税務調査事案において、契約書類の日付の改ざんを行った納税者が重加算税を課される様を目の当たりにしたことにより、以後、決してそうした行為を許容しない旨の方針を貫いている(要領を得ない納税者の応答に対して、「あんた、地元じゃ名士で通っているかも知れないが、その答えは小学生以下だよ」と返した料調の主査の言葉が忘れられない)。
・ 1990 年代には、日本で 2 番目とされる非上場株式の物納許可事案、租税特別措置法第 40 条・第 70 条の非課税特例を適用した約 1 ヘクタールの林地の自然保護団体への寄付事案、私道の評価割合を当時の60%から現行の30%に引き下げる要因となった不服申立事案などを担当した。
・論考では、月刊「税理」(ぎょうせい)の1999年7月号に「無償返還届出貸宅地をめぐる現行評価実務の矛盾点」を、2006年10月号に「広大地新通達が引き起こす相続事案の問題点~広大地評価の光と影」を各々寄稿。2014年には、法務省のパブリックコメント「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見発信を行い、2018年にはWEBマガジン『プロフェッションジャーナル』創刊5周年記念連載「AIで士業は変わるか?」へ寄稿した。
・2021年、南青山資産税研究所を開設。東京税理士会・麻布支部所属。