人的資本経営と情報開示
2/46

      1 近年、投資や経営において人的資本が注目を浴びています。その背景には、ESG投資の拡大があります。例えば、GSIA(世界持続可能投資連合)の調査によると、世界のESG投資の投資残高は2016年の22兆8,390億ドルから2020年には35兆3,010億ドルに増加しています。 同時に、企業の価値創造のあり方も変化しています。1990年代後半のIT革命以降、欧米先進国では無形資産が経済成長の牽引役となりました(経済産業省『通商白書2022』)。2015年には、S&P500やS&P Europe 350に採用される企業価値の7割以上が無形資産によるものと考えられています。ところが日本では、無形資産は企業価値のわずか3割程度にとどまっています(同年の日経平均株価)。ここでいう無形資産には、研究開発やブランド以外に人的資本も含まれています。 2018年12月には、人的資本の情報開示のための国際規格として、国際標準化機構(ISO)がISO30414を発表しました。この頃からすでに人的資本に関心を寄せて動き始めた日本企業もみられました。2020年8月には米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化しました。その後、日本においても2020年9月に経済産業省が、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(通称「人材版伊藤レポート」)を発表しました。人材が費用(人件費)としてではなく、価値創造の源泉であると明確に位置付けられたことになります。 本書の執筆を手がけたEYには、人材や組織マネジメントをベースにするピープル・アドバイザリー・サービスと、ESGやサステナビリティの観点で、人的資本を含む無形資産と企業価値の統合や開示を支援する気候変動・サステナビリティサービスがあります。これらはともに、グローバルに組織されたチームで、世界中の先進的な事例や知見に基づき、日本企業の企業価値向上に貢献しています。近年では、2021年に経済産業省から委託された「人的資本開示に関する調査」を進め、投資家の人的資本の読み解き方や、日本企業の人的資本投資の考え方、海外企業の人的投資に関する開示事例をまとめました。また、2022年には、オックスフォード大学と共同で実施した、人的資本経営はじめに

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る