A賃借人の原状回復義務とは●民法621条(賃借人の原状回復義務) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。原状回復義務の範囲原状回復についての特約について94 賃貸借契約における賃借人の原状回復義務とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少(たとえば、壁紙を汚したり、フローリングを傷つけたりというようなことです)のうち、賃借人がわざと傷つけたり、不注意によって傷つけたり、その他通常の使用を超えるような使用によって傷つけたりした場合のその損傷を復旧する義務のことをいいます。ます。 もっとも、賃貸借契約が終了したとき、どのような場合であっても賃借人が壁紙やフローリングの張り替え費用のすべてを負担しなければならないわけではありません。 この点、賃貸借契約における原状回復義務については、賃貸人と賃借人とのトラブルが多いことから、国土交通省が、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます)を定めています。 ガイドラインにおいては、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損そん耗もう等については賃借人が負担すべきとされていますが、自然的な劣化、損耗等(経原状回復の費用は、原則として賃借人が負担し年変化)および賃借人の通常の使用により生じる損耗等(通常損耗)については賃貸人が負担すべきとされています。この点については、令和2年に改正された民法621条においても、明確に規定されました。 原状回復についての法律上の定めは先に述べたとおりですが、賃貸人と賃借人との間の個別の賃貸借契約においては、通常の使用による損耗・毀き損そんについても賃借人が原状回復義務を負うものとする特約が定められている場合があります。 このような賃借人の義務を重くするような特約を定めることは可能です。もっとも、ガイドラインにおいては、そのような特約は、①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること、②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること、③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることという要件を満たしていなければ、効力を争われる(有効な特約とは認められない可能性がある)ことに十分注意すべきであるとされています。 入居時点で壁紙やフローリングに傷などがある場合には、退去時に争いになるケースに備えて、入居時の建物の状況の写真(傷や汚れがあるところなど)を撮っておくのも有効です。Q3-42退去時の原状回復義務の範囲は?これまで借りていたアパートを大家さんに明け渡したのですが、大家さんから、「壁紙が汚れているし、フローリングも傷ついているので、すべて張り替える」などと言われ、敷金が返ってこないばかりか、追加の費用を請求されました。このような費用は、アパートを借りていた私が負担すべきものなのでしょうか。
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