我が国の株式会社には、大規模な上場会社とファミリー経営による中小会社(ファミリービジネス)という企業実態を全く異にするものが存在しています。現在の会社法は、本来前者のような大規模会社への適用を予定しており、そこでは所有と経営の分離を前提とした制度設計がなされています。しかし、会社法で議論されるコーポレート・ガバナンスや株主価値最大化などをファミリービジネスにそのまま適用すると、さまざまな点で不都合を生じます。そこで、本書ではまず、ファミリービジネスにおけるガバナンスとは何かという高尚な議論からスタートしました。次に、ファミリービジネスの事業承継について考えました。非ファミリー企業では、一定の評価基準があり、社員間の競争を経て社長が選ばれますので、比較的短期間に世代交代が行われます。一方、ファミリービジネスでは、創業者一族の「家業」の継続が最も大きな関心事となっています。ファミリービジネスの経営者は、企業を成長させ利益を上げることと同じく、もしくはそれ以上にファミリー内部の人材から後継者を育てて選ぶことが重要な仕事になるのです。そこで、本書では■間言われるようなM&Aを利用した事業承継には触れず、あくまでファミリー内での世代交代(サクセション)をテーマにしました。同時に、適切な世代交代こそが事業を飛躍的に変革できる大チャンスだという認識を示しました。さらに、世代交代が行われると、それまでの経営者は自分の仕事を手放します。すると次の心配事は自らの資産管理です。いつ病に倒れるかもしれないという不安、仕事から離れた孤独、さらに認知症などによる判断能力の低下が始まるかもしれないという恐怖。こういった引退後の経営者に対しては弁護士や会計士等の専門家が「寄り添い」「見守る」ことが必要だと考えます。そして、どのような方であってもいつかは死を迎えます。その際にファミリー内部で争いが生じないよう準備をし、相続のお手伝いをするのも専門家の役割です。上記のようなファミリービジネスとその経営者のライフサイクルを観察すると、非ファミリー企業とは決定的に異なる特質があり、それが一貫して継続していることがわかります。その例として、たとえば創業者の理念の継承、ファミリー経営を続ける意思、ファミリーとビジネスの相克と調和、経営者の孤独と不安等が挙げら巻頭言
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