遺産税・相続税とは① 遺産税とはどんな制度か 遺産税(estate tax, death duty)とは、人が死亡した場合にその遺産を対象として課税する制度です。この制度は、英米系の国々が採用しており、人は生存中に蓄積した富の一部を死亡にあたって社会に還元すべきであるという考え方に基づいています。遺産税制度が、本来の意味における財産移転税だといわれています。② 遺産取得税とはどんな制度か 遺産取得税とは、人が相続によって取得した財産を対象として課税する制度です。この制度は、ヨーロッパ大陸諸国において採用されており、偶然の理由による富の増加を抑制することを目的としています。遺産取得税は、実質的には所得税の補完税だといわれています。 わが国は、1905(明治38)年に相続税を導入したときには、遺産税の制度を用いてきましたが、1950(昭和25)年のシャウプ税制以来、遺産取得税の制度に移行して現在にいたっています。こうした転換は、遺産税より遺産取得税の方が、担税力に即した課税の要請により良く適合する、というのが理由とされています。いいかえると、相続財産の額に応じて税負担が相続人間に公平に分配され、さらに、富の集中排除の要請により良く適合するとの考え方です。 わが国の現行課税方式は、1958(昭和33)年から純粋な遺産取得税の考え方を修正して、法定相続分課税方式を採用しています。これは相続財産を法定相続人が法定相続分に応じて取得したと仮定して相続税の総額を算出し、これを各相続人および受遺者等が実際に取得した財産の価額に応じて按分して計算する方式です。 しかし、この方式では遺産の総額がわからないと税額計算ができないこと、相続人の1人の特例が相続人全員に影響されること、取得した財産額は変わらないのに遺産総額が変わると税負担額が変動することなど、必ずしも個々の相続人の相続額に応じた課税がなされず、現代の個人中心の世情に対応していないとの批判があります。③ 相続開始前7年以内の贈与と相続時精算課税の関係 贈与と相続は、相互に深い関連があり、贈与財産をどの程度相続税に取り込むかが相続税制度のもう1つの重要な課題といえます。具体的には、①被相続人からの生前の贈与(特別受益)をすべて相続税に取り込む方式(累積課税方式)、②贈与財産はすべて贈与税だけで課税関係を終了させる方式、③これらの中間の方式、などさまざまな方式が考えられます。わが国でもかつてシャウプ勧告を受けて1950(昭和25)年から1953(昭和28)年にかけて①の方式が採用されたことがあります(1953年に、この方式は執行面に難点があるとして廃止されました。)。 わが国の現行制度は、原則として相続開始前7年以内の贈与については、相続税に取り込んで計算することになっています。令和5年度税制改正により、取り込む範囲が「3年以内」から「7年以内」に拡大されました。相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、資産移転の時期の選択に中立的な税制にするというものです。 平成15年度税制改正により創設された相続時精算課税制度(☛2.3.11)により、この制度を選択した者については、相続開始までの贈与財産についてはすべて相続税に取り込むこととされました。これにより、贈与財産と相続税との関係は2本立ての制度となっています。すなわち、わが国の制度は、累積課税方式と贈与税のみで課税関係が終了する方式の中間的な方式であるといえます。371
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