相続税の実務QA
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別に考慮の対象とされる旨の規定は設けられていませんでした。そうすると、下記のような事例では、被相続人甲に係る相続開始に伴って、残存配偶者である配偶者乙は居住建物の所有権は確保できたものの、その他の財産(現金預金等)を取得することは叶わず、生活費の確保の観点からこれを不安視する向きも多くあったようです。事例(親族図)被相続人甲長男A配偶者乙(問題点)上記事例における各相続人の具体的な相続分を算定すると、下記に掲げる計算のとおり、配偶者乙は30,000千円となりますが、この30,000千円相当額として自宅(被相続人甲と配偶者乙の居住用)を充当すると、もはや、配偶者乙には現金預金等を取得する権利がなくなってしまいます。各相続人の具体的な相続分の計算相続開始時の財産30,000千円(自宅)+30,000千円(現金預金等)=60,000千円特別受益額0千円みなし相続財産+=60,000千円各相続人の具体的な相続分配偶者乙×12=30,000千円長男A12=30,000千円配偶者居住権を新設することによる問題解決上記に掲げる問題点に対応するものとして、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定の期間、当該配偶者に当該建物の使用を認めることを内容とする法定の権利(配偶者居住権)が、平成30年7月の民法改正によって新設(施行日:令和2年4月1日)されることになりました。この配偶者居住権は所有権ではなく、居住建物に対する配偶者のために設けられた使用収益権であることから、その価額は居住建物が所有権とされる場合の価額に比して低額になることが想定され、配偶者に対する居住権を安価で確保させることによって、現金預金等の金融資産の当該配偶者の取得機会を増大させ、これによって生活費の確保を図り、生活の安定に資することが可能とされます。上記の事例において、自宅(被相続人甲及び配偶者乙の居住用)につき、次に掲げるとおりの遺産分割ができた場合における各相続人の現金預金等に対する具体的な取得金額(法定相続分で取得したものとして算定)は、下記計算のとおり、配偶者乙につき18,000千円となり、これに(被相続人甲に係る相続開始時の財産)自宅(被相続人甲及び配偶者乙の居住用)……30,000千円現金預金等……30,000千円(注)被相続人甲に係る相続について、特別受益(遺贈又は一定の贈与(詳細については、5を参照)を考慮する必要はないものとする。第1章民法相続編57

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