プロフェッショナル 消費税の実務
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1 インボイス発行事業者には、仕入れを行う課税事業者からの求めに応じ、インボイスを交付し、その写しを保存する義務があります(消法57の4①)。2 区分記載請求書等保存方式においては、納税義務の免除により税収ロスが発生し、それが事業者の利益となっていました。消費税相当額を上乗せしている場合は納税しない売手が利益を享受し、上乗せしていない場合は仕入税額控除をする買手が利益を享受していたことになります。制度の変更によって、その利益を返上することになります。 インボイス発行事業者以外からの仕入れについては、控除できない税額は買手のコストになってしまいます。従前の支払額を継続すれば買手の利益が減少し、消費税等相当額の減額をすれば売手の利益が減少します。 買手には、「インボイスのない課税仕入れ」を区分する事務負担も生じます。売 手買 手 免税事業者や消費者はインボイス発行事業者となることができないため、これらの者からの課税仕入れは、仕入税額控除の対象となりません。インボイスが交付されない課税仕入れは、仕入税額控除の対象から除外しなければなりません(消法30⑦)。 免税事業者が登録できない理由として、インボイスに記載した税率の適正性は、交付した事業者自らが申告することによって担保されるという点が挙げられるでしょう。 令和5年の税制調査会の中期答申には、「仮に、納税義務のない免税事業者がインボイスを交付できるような仕組みとした場合、免税事業者は、インボイスにどのような税額を記載しても、自らの納税額には影響がないため、買い手の求めに応じて、高い「税率」や「税額」を記載する誘因が働く可能性もあります。このため、免税事業者がインボイスを発行することは認められていません」「諸外国の付加価値税においても、一般的に、納税義務のない免税事業者が税額を記載したインボイスを発行することは認められていません」※とされています。 また、小規模事業者を納税事務負担から解放するという事業者免税点制度の趣旨からすると、免税事業者がインボイスを交付する、つまり、他者の申告のために適正な税率を記載したインボイスを交付することができる、という前提を置くと、事業者免税点制度の存在理由に疑問が生じてしまうという点を指摘することもできるでしょう。 ※ 税制調査会「わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」(令和5年6月)160頁。インボイスを交付し、その写しを保存する義務がある。94帳簿及びインボイスの保存が仕入税額控除の要件となる。「納税の義務」と「控除の権利」免税事業者への影響

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