第二部 税務会計 法人税の原価計算このような場合は、法人の事業年度の利益調整のため意図的に法人が低価法による評価損の計上を回避しているから、棚卸資産の時価が下落している事実を仮装して期末棚卸資産の金額を増加させていることになる。つまり、会計上いわゆる粉飾決算を行っていると評価される。このような場合、法人税法第29条カッコ書の規定と仮装経理規定である同法第129条(更正に関する特例)の規定のどちらが優先適用されるのかという問題が生じる。事実関係としては、法人が利益調整を目的とし、(棚卸資産の時価の低下という事実を隠ぺいあるいは下落していないものと仮装して)結果として低価法に基づく評価を見合わせた(いわゆる「つまみ食い」も同様と考える)ことになる。そうすると、このケースは法人税法第29条カッコ書の適用要否の問題ではなく、仮装経理規定(法129①)が適用され、更正処分が見合される(法人の経理処理が是認されたことにはならない:次の段落参照)と考える。仮装経理規定が適用された場合には、翌事業年度の処理は注意を要する。すなわち、翌事業年度において、適正な修正経理を行っていない(単に期首棚卸資産として売上原価に計上する)場合には、法人計上額と低価法を適用した場合の価額との差額はこの事業年度の損金とは認められないから、売上原価過大として否認されるからである。なお、棚卸資産の一部に低価法の適用もれがあった場合でも、前述したとおりその評価単位ごとに同法第29条カッコ書の規定を適用するかどうかが検討されるから、低価法を適用している棚卸資産全体に同法第29条カッコ書の規定が適用されることはない。〈ケース3〉 低価法の適用を法人が意図的(利益調整のため)に回避し、金額も多額である場合第四章 原価計算の重要項目 — 119
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