家族信託をもちいた財産の管理・承継
48/52
第3章 家族信託の関係者の留意事項228る。それは、受託者には、信託財産を受益者のために確実に管理することが要求されるためであり、この受託者の重い義務は、家族信託の要になっている。しかし、家族の一員が受託者に就任した場合には、この受託者の重い義務に関する認識が足りないことがある。そのため、家族が受託者に就任する場合には、事前に、受託者には重い義務が課せられていること、また、受託者に就任した後には、その重い義務を履行すべきことを十分に理解させなければならない。[3] 会計帳簿等の作成方法に詳しくないこと受託者は、上記義務以外にも、帳簿等の作成等の義務が課せられている(信託法37条)。この信託法37条では、1項により「信託財産に係る帳簿その他の書類」、2項により「貸借対照表、損益計算書その他の法務省令で定める書類」の作成が義務付けられているが、受託者に就任した家族は、これらの会計帳簿等の作成に慣れていないことが一般的である。そのため、受託者がこれらの会計帳簿等の作成を怠り、結局、受益者に対する報告が疎かになってしまいがちである。しかし、受託者がこれらの会計帳簿等を作成し、受益者に対し信託事務処理の内容を報告することは、受託者の事務処理の適正を確保するために重要なことである。そこで、受託者に就任した家族が、これらの会計帳簿等を作成できるように、専門家がサポートする必要がある。[4] 利益相反への注意家族信託の場合、関係者が家族だけで構成されていることが多く、馴れ合いになってしまう危険性がある。上記[2]で指摘した義務のなかで、特に、受託者の忠実義務(信託法30条~32条)に違反すると疑われる事例が多くみられる。親が委託者兼当初受益者となり(自益信託)、その子が受託者になるケースにおいて、受託者である子が既に信託財産を取得した気にな
元のページ
../index.html#48