民法[相続法制]改正点と実務への影響
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第1節 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)43た場合に持戻しの免除をすることができるかは、現行法においても問題となり得ます。相続させる旨の遺言が遺産分割方法の指定であると解される場合であっても遺贈と実質的に大きな差異はないこと、相続させる旨の遺言について、上記最判も、「遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、(中略)遺産分割方法の指定がされたと解すべき」と判示していることからすれば、本推定規定の存在を根拠として、「遺贈と解すべき特段の事情」があると考えることもできます。 そのため、居住用不動産を相続させる旨の遺言がされた場合についても、本推定規定の趣旨が当てはまるとして、本推定規定を適用または類推適用できると考えられます。(3) 本推定規定による効果 上記要件を満たした遺贈または贈与については、持戻し免除の意思表示があったものと推定されるため、反証なき限り、特別受益となる遺贈または贈与について持ち戻し計算を行う必要がありません。 例えば、被相続人が生前に配偶者に居住用建物を贈与(相続開始時の価額3,000万円)、相続人は配偶者と子のみ、相続開始時の遺産は7,000万円の預貯金である場合に、持戻し計算を行った上での配偶者の取得額は2,000万円((3,000万円+7,000万円)×1/2-3,000万円=2,000万円)であるのに対し(子は5,000万円)、本推定規定により持戻し計算が行われない場合の配偶者の取得額は3,500万円(7,000万円×1/2=3,500万円)となり、生前贈与分の3,000万円と合わせると合計6,500万円となります(子は3,500万円)。(4) 適用関係 本推定規定については、民法等改正法施行日前になされた遺贈または贈与については適用されません(民法等改正法附則4)。

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