本書は、架空循環取引という事象の発生について様々な実例を用いながら多面的に分析するとともに、その抑止のための方策、あるいは発覚後のあるべき実務対応について会計面、法務面及び税務面から検討することを目的としている。そのため、第1編では架空循環取引の発生を業界特性の観点から解明し、会計上の収益認識基準の問題を取り上げ、具体的な実例から同取引開始のきっかけ、首謀者の人物像、長期間発覚しなかった理由、循環取引発生の兆候及び同取引発覚の経緯について分析した上、発覚時の企業のとるべき対応策について検討している。第2編では、循環取引発覚後の、特に法律上の様々な論点について整理し、会社に対する制裁、取締役の責任、循環取引を巡る訴訟上の論点を取り上げている。第3編では、循環取引の結果生じる過年度の財務報告の遡及調整について、設例を交えながら、会社法上、金商法上及び税法上の論点について整理している。最後に第4編では、循環取引の早期発見の観点から必要な社内環境の構築、内部統制の整備・運用及び会計監査上の留意点をまとめている。以上の構成にて、本書は、架空循環取引という、ある種わが国特有ともいえる不正スキームについて総合的に分析・検討している。 現在、金融庁、東京証券取引所並びに日本公認会計士協会は、FOI事件を受け、再発防止に積極的に取り組んでいる。閉塞感の漂うわが国経済にとって新興市場の活性化は喫緊の課題であり、その潮流に水を差すようなFOI事件を2度と起こしてはならないのである。新興市場は、同事件を教訓とし、適切な仕組み・運用体制を構築しなければならない。その意味で本書が資本市場の関係者に有益な情報となれば幸いである。さらに、企業の管理担当者(特に経理、法務、内部監査等)あるいは公認会計士、税理士、弁護士等の専門家にとって、少しでも実務の役に立てば望外の喜びである。 最後に、本書発刊にあたり、株式会社清文社の橋詰守氏には大変お世話になった。執筆者を代表して心より感謝申し上げたい。 平成23年2月執筆者を代表して 公認会計士/公認内部監査人/公認不正検査士 霞 晴久
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