架空循環取引
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はじめに ――ウソの通訳、実在の会社名で入金。 平成22年5月12日朝のTVニュースは、神奈川県相模原市にある㈱エフオーアイ(以下「FOI」)本社に一斉に強制捜査に入る証券取引等監視委員会調査官の姿を映し出した。いわゆるFOIの巨額粉飾事件である。同社の社長逮捕が報じられた日本経済新聞記事(平成22年9月15日)によれば、同社は平成21年3月期の実際の売上高は3億円弱しかなかったのに、上場を翌月に控えた平成21年9月に関東財務局に提出した有価証券届出書では約118億円と過大に記載していたという。 冒頭の一文は、上記で引用した日本経済新聞記事の小見出しであり、同社の粉飾の手口を端的に表している。すなわちFOIの粉飾は組織ぐるみの徹底的なもので、伝票上だけで売買を装う売上取引を仮装し、伝票類も実在する企業の書類を手本に偽造していた。また、売上金の入金には簿外口座を利用してFOIの口座から国外の簿外口座へ出金し、そこから海外に実在する会社名義でFOIに入金していたという。 実は筆者はこの記事が出たとき簡単に読み飛ばしてしまったが、知人からの指摘を受けて改めて記事を読み返したところ、自分の読解力の無さに愕然とした。なぜなら、上記の売上金回収のフローは循環取引そのものだからである。循環取引の事例では架空売上の回収資金を自らが捻出し、外部の第三者を経由して自己に還流させることをきっかけとしていることが多い。すなわち、FOI事件の実態は架空循環取引による粉飾事件だったのである。循環取引には外部の協力者が不可欠であり、引用した記事にも、海外企業との架空取引を信用させるため会計監査人である公認会計士を海外に連れて行き、偽りの取引先を紹介し、あらかじめ手配しておいた通訳にウソの内容を説明させていたという記載がある。冒頭の一文はこのことを表している。 筆者は監査法人に勤務し様々な不正調査に携わってきた。その中で複数の大

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