はずの複数の商社が巻き込まれるという事件が発生した。ATT事件に関する報告書を読んでいると、東芝事件の陰であまり目立たなかったが、同じ2015年上期には「チャイナリスク倒産」という言葉が一部の調査会社のレポートで使われるようになっていて、その被害に遭った日本企業の報告書などを読むと、これもまた実は中国企業を舞台にした架空循環取引ではないかと思わせる内容であった。 こうした新しい架空循環取引の事例も、改訂版にはできる限り、反映させるようにしている。 また、会計不正事件を防止し、会計不正により利益を得たり、虚偽の報告を行ったりした場合に制裁を与える側である証券取引所などの対応も様変わりしていることから、架空循環取引をめぐる法務の問題についても、稿を改めている。 会計不正のみならず、企業不祥事の再発防止策という観点に目を向けると、やはり「内部通報制度」が一般化したことが大きいのではないだろうか。日本人にはなじまないといわれていた「告げ口窓口」を社内だけでなく社外にも設置し、内部通報を奨励する企業が増えてきている。ほかにも、不祥事防止のための会計監査人のローテーション制度、内部監査部門の位置づけなど、新しい論点についても、大幅に加筆している。 共著者3人の思いは「会計不正を許してはならない」という言葉に尽きる。そうは言っても、会計不正を完全に防止することは困難であり、コスト面からも業務の効率性からも、完全に不正を防止するための方策を講じるよりも、「会計不正をいかに早く発見するか」に力点を置くべきであるという点で一致している。 初版と同じく、私見にわたる部分については、必ずしも共著者の意見が一致しているわけではないが、あえて、調整することはしていない。むしろ、会計、法務及び税務と拠って立つバックボーンの異なる共著者の考えの相違点にこそ、会計不正問題の難しさがあり、奥深さがある気がしている。
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