改訂にあたって 初版が刷り上がったばかりの「架空循環取引――法務・会計・税務の実務対応」を手にしたのは、2011年3月、東日本大震災発生の少し前のことであった。それから7年以上の歳月が過ぎ、この度、改訂版を発刊できることとなった。 初版が出てから、現在までの会計不正事件を軽く振り返っておきたい。 やはり、最も大きな衝撃を与えたのは、2015年4月に発覚した東芝の粉飾決算であろう。日本を代表する企業において、長期間、売上と利益がかさ上げされ、日本で最も大きな監査法人がそれを発見できなかった。私たち会計不正に興味を持つ者だけでなく、一般のサラリーマンの耳目も集めた第三者委員会による調査報告書は、多くの識者から酷評された。この事件をきっかけに、第三者委員会の在り方そのものが問われることが多くなった。 そして、第三者委員会といえば、日本弁護士連合会が「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表したのが2010年7月だから、初版の執筆にとりかかっていたころは、まだ「第三者委員会を設置して調査する」という手法は一般的ではなく、調査報告書が公表されることも多くなかったと記憶している。東芝事件の影響もあってか、現在では、会計不正だけでなく、品質偽装やセクシャルハラスメントといった企業不祥事から、いじめによる自殺、スポーツ界におけるパワーハラスメント疑惑まで、第三者委員会による調査がきわめて当たり前のように行われるようになった。テレビでは、ワイドショーのコメンテーターが「第三者委員会の調査結果を確認しないとコメントできない」と発言しているらしい。そんなことでは、コメンテーターの存在意義はないのではないかという突込みはともかく、不祥事を起こした企業が、調査委員会の報告書を適時開示し、再発防止策の提言を受けて、信頼回復に取り組んでいくというプロセスは、実務では一般化している。 2017年夏には、改訂版でも取り上げることとなったATT社による中国企業を隠れ蓑にして大規模な架空循環取引が発覚して、本来、与信管理には厳しい
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