した3名の著者が、旧版以来発覚した会計不正事件を丁寧に調査し、分析し、実務に役立つようブラッシュアップを図っている。とりわけ、日本企業の信用回復に向けて、ここ数年、企業に対する行政規制は大きく変化しており、実務指針を提供する本書の趣旨からみれば、旧版はやや陳腐化しているきらいがあった。そこで、改訂にあたっては、法務面、会計面、税務面での変化に対する手当が十分になされている。 一読すればおわかりのとおり、これまで新聞やニュースを賑わせてきた会計不正事件に関して公表されている調査報告書などを基に、解説を試みているのが特徴的である。単に法務、会計、税務等、その専門家が執筆を分担した書物ではなく、それぞれの専門的知識を有機的につなげて、議論の末に著されたものである。とりわけルール改正のスピードが速い分野であるだけに、たとえば役員に対するリーガルリスクなどを最新の裁判例などを参考に考察し、また会計基準の改訂が架空循環取引防止に及ぼす影響等を解説する点は、実務上きわめて有意義である。また、会計不正事件が社内で発覚した場合、社内調査、あるいは社外第三者に委ねる調査が必要となるが、情報開示に多数の利害関係者が関与するため、その時間的余裕に乏しいのが現実である。本書は架空循環取引の概要を把握し、原因を分析し、再発防止に向けての具体策を検討するなど、適切な調査活動を進めるうえでも有益である。 会計不正を予防するためには、まずは不正が起こりやすい組織、風土なのかどうか、じっくりと自社をみつめる必要がある。そのためには実例を学び、自社ではどのような対策をとるべきなのか具体的に研究すべきである。本書はそのような企業実務家の方々の研究対象としてもまことに参考になるものと確信する。架空循環取引は、すべてのビジネスに共通する不正とまでは言えないものの、その研究を通じて得られる知見は、会計不正事件の予防、早期発見、事後対応に有用なものである。ゆえに架空循環取引のリスクが希薄な業界の方々にも、自信をもってお勧めできる一冊である。 平成30年12月弁護士 山口 利昭
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