実務に対応する税務弁護の手引き
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であると思われる。 このような、いわば「申告税務」というべき実務と、税務調査で決裂した後の再調査の請求、審査請求、税務訴訟といった「紛争税務」というべき実務とでは、仕事の方法としては別物であると思われる。紛争税務での解決指針は、租税法の体系、条文の文言、条文の趣旨、判例、裁決であり、証拠に基づく事実認定である。医学で言えば、申告税務は内科的、紛争税務は外科的と言えるだろう。 税務の専門家である税理士はほとんど申告税務に注力し、税務署と税理士が税務調査段階で意見を交換することにより、多くの事案では、おおむね妥当な解決に至っていると思われる。しかし、不幸にも税務調査段階で妥当な解決に至らなかった場合には、紛争税務の土俵で合理的な解決を図らざるを得ない。 冒頭のとおり、本書は紛争税務を対象とするが、特に、次の三つのことを心掛けて執筆した。 第一に、紛争税務の解決のためには、細かな実務的取扱いの知識よりも、なぜそのような取扱いとされているのか、それは租税法の全体像や条文の趣旨からして正当化されるか、その射程はどこまで及ぶかといった法律的思考の方が重要である。 税務の実務書は細かなルールを詳細に説明するものが多いが、なぜそのような規定となっているかは必ずしも明記されていない。本書ではなるべく条文の立法趣旨に遡って考察することを心掛けた。 第二に、判例や裁決は、紛争税務解決の指針となるものであるから、可能な限り言及するようにした。なお、審判所の裁決は、裁判所の判決と比べて、税法の体系書等ではさほど触れられないことが多いが、特に再調査の請求、審査請求では無視できない。本書では、審判所が公表している裁決要旨を適宜要約するなどして紹介するようにした。 第三に、判例、裁決、通達には、法解釈に疑問のあるものも存在する。それらの疑問についても法律的な考察を行うことが本書の趣旨に適うと思われるので、臆することなく私見を記述することとした。

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