民事・税務上の「時効」解釈と実務
17/38

A及びXは、乙土地上に建物を所有することで、乙土地の占有をしていたことになります。Xが乙土地の取得時効の要件を検討する場合、前主であるAの占有(1995年4月1日開始)と自己の占有(2008年4月1日開始)を併せて考えるのか、それとも自己の占有のみで判断するのかという問題があります。(占有の承継)民法第187条占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。2前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。この規定により、「占有者の承継人」であるXは、Aの占有を併せて主張することも、Xの占有を単独で主張することもできることになります。(2)主観的事情の承継ただし、前主の占有を併せて主張する場合には、「その瑕疵をも承継する」(同条2項)とされており、その趣旨から、占有開始時点における前主の認識(善意か無過失か)を併せて承継するものと解されています[19]。Xとしては、Aの占有を併せて主張するのであれば、Aの占有開始時における主観的事情を前提に時効期間を主張することになりますし、Xの占有を単独で主張するのであれば、Xの占有開始時における主観的事情を前提に時効期間を主張することになります。つまり、Xが善意無過失であったとしても、Aが悪意または有過失であれば、Aの占有開始時から10年の時効主張はできません。一方で、Xが悪意または有過失であったとしても、Aが占有開始時に善意無過失で[19]最判昭和53年3月6日民集32巻2号135頁433.〈要件1〉時効期間の経過

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る