税理士が使いこなす 改正国税通則法
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 したがって、原則としては、異議申立、審査請求等においても、契約書の存在や文言が事実認定の重要な要素となるといえるのである。 とはいえ、契約書記載のとおりに事実が認められるというのは、あくまでも原則であって、例外的に特段の事情のある場合には契約書と異なる事実認定がなされる場合も少なくない。契約書が存在していたとしても、これが事実認定上どの程度の証拠価値を有するかは、当該契約書の作成経緯、他の直接事実、間接事実、補助事実との整合性、全体としての事実のストーリーの自然さ等の種々のことから実質的に判断されるのである。 また、納税者の主張する内容の契約書が存在しない場合にも、それだけで直ちに納税者の主張が認められないというものでもない。契約書が作成されないことに合理性があったり(たとえば親族間での貸借など)、その他の事実と整合していたりする場合には、契約書等の書面の証拠がなくても契約関係が認められうる。なお、民法の原則としては、契約は双方の意思表示の合致によって成立するから、書面が作成されなければ契約が成立しないというわけではなく、口頭でも契約は有効に成立する。 以上のことは、裁判所での訴訟実務のみならず、審判所での審査請求実務においても常識的な事柄であるが、こと、税務調査では、調査官によっては契約書の有無内容に拘泥した形式的な主張が述べられることもあるようである。 そこで、以下では、審判所の過去の裁決事例で契約書の存在、内容と当事者の主張が齟齬するケースを取り上げ、審査請求の事実認定においては、単に形式的な契約書の有無、文言のみではなく、その他の事実との整合性などから、実質的に事実認定がなされていることを紹介する。2契約書がある場合の事実認定が問題となった事例 まず、一定の契約書がある場合に、これと齟齬する事実が認められるか否かが問題となった事例を取り上げる。①事例1(国審東京支部平成24年10月10日、288第7章事例研究

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