租税回避をめぐる税務リスク対策
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6第1編 行為計算否認規定の適用の要件計算否認規定である法人税法132条の不当性要件の解釈についての裁判所の判断を紹介し、今後の実務における指針となるべき司法判断がどのようなものであったのかについて述べることとする。なお、ここで、本書において使用する用語について1点だけ述べておきたい。本書においては、可能な限り「租税回避」という用語は使用しないこととしたい。というのも、「租税回避」という言葉の意味については、必ずしも明確な定義があるとはいえず、論者によって、あるいは、文脈によって異なった意味で使われているように思われるからであり、適切な定義なく用いることは混乱を招く可能性があると考えるからである。有力な学説上、租税回避については「私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的効果を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少させあるいは排除すること」と定義している2が、このような定義では、特に経済的目的や経済的効果を意図することなく、形式的に課税減免規定を充足させることによって税負担の軽減を図るスキームとしての税負担軽減策は含まれないと考えられるし、もっぱら私法上の選択可能性に焦点が当たっているという点でもその対象は限定的なものであるかのように解され、必ずしも私法上の選択可能性を利用したとはいえない場合でも、行為計算否認規定の対象となるケースはあり得るように考えられる。さらに、上記のような定義では、行為計算否認規定との関係では、租税回避に該当すれば、行為計算否認規定における「税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」との要件を充足することになるのか、という点も必ずしも明確とはいえない。したがって、本書においては、裁判例や文献の引用において用いる場合2 金子宏『租税法(第21版)』(弘文堂、2016年)125頁

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