海外財産・海外居住者をめぐる相続税の実務
2/20
はじめに パナマ文書をめぐる問題にみられるように、富裕層の国際的な租税回避が、各国の税務当局や一般の納税者の注目をあびています。このような海外財産に対する所得税・相続税課税もれ、租税回避行為を阻止するため、関連法及び税務当局による調査体制が次々と整備されてきており、「国外財産調書」「国外転出時課税」「金融口座情報自動交換制度」といった新たな制度で、従来目に触れなかった情報の税務当局への開示が義務付けられています。 さらに税制改正も頻繁に行われており、相続税・贈与税の納税義務者だけをとっても、度重なる改正により、その区分はかなり複雑でわかりにくくなっています。平成29年度の税制改正により、今までの「5年しばり」が「10年しばり」となり日本人の海外移住スキームによる租税回避に対する課税が強化された一方、従来課税対象となっていた一時的な駐在で来日した外国人の海外財産の相続・贈与については、課税されないことになりました。 私どものところにも、このように次々と新しくなる個人に対する資産課税の仕組みに対して不安に思っている、日本に居住している外国人、海外に居住している日本人、海外投資している日本人、といった方々からの相談が増えてきています。 一方、国際相続については、海外財産の申告漏れや納税義務者の区分ミスにより納税者が過大なペナルティを科せられたことによる税理士賠償請求事例があり、税理士も慣れない国際相続を慎重に処理する必要がでてきております。 国際相続に係る日本の相続税申告を適正に処理するためには、日本の相続税に対して正しい理解が必要不可欠です。その上で、国際相続について日本の相続税でどのように処理していけばいいかを判断していく必要があります。 本書では、その判断の指針になるよう、税務判例や税務当局の発信している事例を掲載しております。
元のページ
../index.html#2