第2章 遺留分に関する民法特例と取引相場のない株式評価の必要性8オーソドックスな事業承継による株式の移転は生前贈与(無償譲渡)によるものです。このとき税務上は、相続時精算課税制度や非上場株式等の納税猶予の制度を適用するにしても、相続税の申告時点においては贈与した時点での株式の評価額が相続財産として持ち戻されます。一方、民法上は、取引相場のない株式の生前贈与は、特別受益として遺留分算定の基礎財産に加えられるのが通例です(遺留分については、後掲12ページのアドバイス、13ページの一口メモをご参照ください。)。ここで注意しなければならないのは、税務上の取扱いにおいては、生前贈与された時点での株式の評価額が持ち戻されて相続税の課税対象になるのですが、民法上はそのような取扱いになっていないことです。民法上、遺留分算定の基礎財産となる株式は、相続開始時点での評価額になるということです。平成30年度の税制改正によって、事業承継税制の使い勝手がよくなったと注目を浴びていますが、このような中で、経営に必要な株式の贈与がなされ、税法上も有利な選択ができた後、後継者が期待に応えて事業を盛り立て、承継した会社を大きく発展させることがあります。むしろこのようなことが多いことが想定されます(前掲6ページの一口メモ参照)。そうすると、その会社の株価は上昇し、他の相続人の遺留分を増大させ、かえって会社の経営危機を招く可能性があるのです。そこで、これまではあまり利用されてこなかった民法特例も再びクローズアップされることになります。経営承継法は、後継者が贈与により取得した自社株式について、「遺留分を算定する際の価額を合意の時における価額に固定する」ことを内容とする合意(以下「固定合意」といいます。経営承継法第4条第1項第2号)を行うことができ、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可といった諸手続を経ることで当該合意の効果が生じることとしました(同法第7条から第9条)。次の図で示したように、②の「固定合意」(又は①の「除外合意」)を活用することで、後継者は、将来の企業価値の上昇に伴う遺留分額の増大を心配することなく経営に専念することができるように措置されました。Ⅰ経営承継法(民法特例)制定の背景
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