よって猶予を受けたとしても、その株式の評価額は、先代経営者の相続財産に加算されるのです。すなわち、非後継者である相続人の相続税額に跳ね返るのです。これまでであれば、換価することのできない自社株式を取得した後継者が、納税資金対策に追われることも多かったのですが、今後は納付しないでもよくなるとすると、その株式の評価額によって納税額が増える非後継者に対して、①株価が適正であることと、②株価対策を十分に行ったことを説明しなければ、納得が得られないということもあるのではないでしょうか。加えて、近年の事業承継税制の要件緩和によって、他人である親族外後継者にも制度適用できるのですから、なおさらではないでしょうか。このような観点から、株価対策の重要性は些かも減じていないと考えます。本書は、上に述べたような観点から、民法特例の評価ガイドラインに基づいた取引相場のない株式の評価方法と、相続税財産評価における株式評価方法を柱に解説を試みたものです。このため、一面では、民法特例の評価ガイドラインの解説書であり、他面では、相続税財産評価における株価対策のヒントを盛り込んだ株式評価の解説書となっています。また、第8章では、特例事業承継税制の概略にも触れ、参考資料として中小企業庁の直近の案内等を添付していますのでご参考になさってください。なお、本書においては、「取引相場のない株式」と「非上場株式等」は同義で使用しています。最後に、本書刊行の機会を与えていただき、企画段階から本書発刊に至るまで多大なご尽力をいただいた株式会社清文社編集部の皆様方と、会社法上の評価等、公認会計士の立場からチェックしていただいた間宮英明公認会計士、多忙の中校正作業をお手伝いいただいた菊池幸夫税理士に深く感謝する次第です。平成30年9月 税理士・不動産鑑定士 吉村一成
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