まえがき中小企業の事業承継問題が我が国の喫緊の課題となる中で、平成30年度の税制改正によって、いわゆる特例事業承継税制が施行されました。これまでの非上場株式等の納税猶予制度の要件を大幅に緩和し、使い勝手がよくなったもので、今後の普及が見込まれます。このため、今後の事業承継においては、株価対策が不必要となり、遺産分割対策に重きが置かれることになるといわれることもあります。しかしながら、遺産分割の重要性はいうに及ばずなのですが、筆者は、次の観点からは、株式評価と株価対策の必要性はむしろ高まったのではないかと考えています。1点目は遺留分対策です。事業承継税制は、取引相場のない株式(非上場株式等)の生前贈与の普及を念頭に置いたものですが、このような株式の生前贈与は、特別受益として、遺留分侵害額請求権(改正民法)行使の基礎財産に含まれることになると思われます。そうすると、現行の遺留分制度は、早期に事業承継を行うに際して障害となりかねないものですから、本書で解説するいわゆる民法特例の制度が重要となってくるのではないかと考えます。これまでは、従来の事業承継税制があまり利用されなかったために、民法特例の利用も限られたものでした。しかし、今後、非上場株式等の納税猶予の普及とともに、民法特例の除外合意、固定合意が行われるケースも増えてくるのではないでしょうか。このときには、生前贈与を行う株式にどれほどの価値があるのか、すなわち、株式の適正な評価額が問題となってきます。取引相場のない株式の贈与を受ける後継者は、株式の評価額について的確な説明を求められる場面が増えてくるでしょう。このときに留意しなければならないのは、取引相場のない株式を評価するに当たり、必ずしも税務上の評価方法が採用されるわけではないということです。そもそも、取引相場のない株式は、税務の場面だけではなく、会社法上の制度等の様々な場面でも評価されることがありますが、このときには、税務上とは別の評価方法が採られることが多く、民法特例の評価ガイドラインも、これを前提に解説がなされています。したがって、今後、事業承継に関わる税理士も、これを知らない訳にはいかないのではないでしょうか。次に、我が国の相続税法が、遺産税方式を加味したいわゆる法定相続分課税方式を採っていることが挙げられます。このため後継者が株式の贈与を受け、事業承継税制の適用に
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