税理士のための取引相場のない株式の評価と対策
16/20

第2章 遺留分に関する民法特例と取引相場のない株式評価の必要性20そもそも事業承継税制は経営承継法の柱の1つですから、法の目的を達成できるようにしなければならないとも考えられます。経営承継ガイドラインにおいても、宅地の評価事例ではありますが、東京地裁平成15年2月26日判決を引用し、評基通によらない評価方法も可能であることを示唆しています。したがって、設例の場合は3,000万円の評価額で申告して差し支えないと考えるものです。<B論>経営承継法評価ガイドラインにおいては、「合意時価額が贈与税の計算における価額を下回ったときには、いずれが『相続税法上の時価』として妥当であるか等を見極めて納税申告することが望まれる。」と記載されていますが、評基通によれば『相続税法上の時価』は「課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」とされているのですから、税務上は、財産評価基本通達に従うことになるとするものです。経営承継法評価ガイドラインで引用している東京地裁平成17年10月12日判決によれば、総則6項が適用されるためには「取引事例が、取引相場による取引に匹敵する程度の客観性を備えたものである場合等例外的な場合に限られ」ます。合意時価額の妥当性が専門家によって証明されているといっても、あくまで私人間における合意価額ですから、課税庁に対して、総則6項を適用できるほどに客観性を備えた価額であると主張するのは相当困難であるとするものです。したがって、設例の場合は9,000万円の評価額で申告しなければ、課税リスクを伴うことになります。<私見>合意時価額は、民法特例による証明を受けているとしても、あくまで私人間の合意に過ぎません。また、証明された価額に強制力があるわけではなく、必ずしもその価額で合意する必要もありません。たとえ非上場株式等の贈与税の納税の猶予が適用されるとしても、課税の繰延べに過ぎず、直ちに贈与税額が免除されてゼロになるというわけではありませんから、恣意的に合意時価額を引き下げるという可能性は残ります。また、前掲した東京地裁平成17年10月12日判決においても、評基通総則6項が適用されるような取引事例については「取引事例が、取引相場による取引に匹敵する程度の客観性を備えたものである場合等例外的な場合に限られる」とされていることに注意が必要です。これらを考慮すると、やはり「特別の事情」を厳格に捉えて評基通が適用されるものと考えられます。「特別の事情」を認定して総則6項を適用するためには、裁判例による次

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る