建設業の経理№78
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はじめに2015年,日本を代表する大手老舗の企業「東芝」の有価証券報告書において過去数年間に亘る巨額な虚偽記載が発覚し,日本の経済界を驚かせたことはいまだ記憶に新しい。不適正(注)な会計処理の内容,それらを引き起こした原因,再発防止策の究明のため,第三者委員会による調査が開始され,2015年7月21日付で調査結果が報告された。本稿では,この第三者委員会によって公表された調査報告書を精査して,建設業会計を不適正に適用した事例としての東芝問題を分析することとする。(注)東芝の公表文,第三者委員会の調査報告書及び一部メディアは不適切会計と称しているが,事例を見る限り会計用語としての不適正な会計に相当するので,以下,不適正会計と称する。第三者委員会は,東芝と利害関係のない中立・公正な外部の専門家で構成され,調査及び検討は2015年5月15日から7月20日まで行われた。調査方法は,役職員からのヒアリング,会計監査人からのヒアリング等,適切な情報収集の方法を適用しており,当該第三者委員会は強制的な調査権限を有していないが,調査対象となった書類又は電磁的記録の写しの内容は原本と同一であることを確認するなど,十分に信頼性が確保されている調査結果であると考えている。調査対象期間は,2009年度(決算期3月)から2014年度第3四半期(2014年12月期)であるが,2009年度の有価証券報告書に記載されている比較対象年度である2008年度も含まれている。さて,工事進行基準による会計は,不正の意図はなくても客観性を保つのが困難な見積もりの上に成り立つ会計だからそれ自体リスキーなものである。工事請負契約を締結したばかりで未だ着工さえもしていない段階で,見積もられた完成工事の総原価を基準にした会計を実施しなければならない。日本の工事契約会計基準も税務基準も原則は工事進行基準であって,工事完成基準は例外処理と言ってよい。不正の意図を以って利益操作をするには,工事収益総額・工事原価総額の金額をまるで伸縮自在なゴムのように金額を調整するだけでよいといっても過言ではない。工事が完成するまでに工事損失を繰り延べることは粉飾の常套手段でさえある。このような工事進行基準に関する会計処理は,会計基準そのものに不適正会計に導く要因が含まれていると理解され,だからこそ,不正や誤謬等に導かない防止の姿勢や対応が,継続的に確認される必要がある。本稿は,東芝の不適正会計の実態に関する分析結果の紹介を目的としているので,工事進行基準に関する内部統制については,稿を改めて公表したい。「東芝」の工事進行基準に係る不適正会計公認会計士山本史枝Spring2017建設業の経理35

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