建設業の経理 No77
4/12
建設業を取り巻く環境―その変化の認識MD「建設業の再生・革新の動向」をメインテーマに,特に「人材(財)」の確保・育成の観点から,はじめに,現在の建設業界を取り巻く諸環境について所見をお聞かせいただきたい。毛利建設投資が長期的に減少し,先が見通せない経営環境が続き,固定費を減少させる傾向が続いてきた。固定費の中心はやはり人件費。人材投資の低調と低賃金という厳しい職場,魅力の乏しい現場環境では,若い人も来ない。物心両面でのデフレスパイラルだったと言える。しかし,このところ環境は変化してきた。5年前の東日本大震災など自然災害が激甚化している。あらためて社会資本の重要性,それを担い支える建設業の役割を,国民が再認識してきており,国土強靭化の政策も追い風となっている。他方,長年,人材の削減を余儀なくされてきた反動で,担い手不足が各地で深刻化しており,仕事があっても断る状況も見られた。現在,全国的な担い手確保の大合唱だ。担い手三法は,そのような環境変化の象徴だ。そんな危機意識を,発注者もきちんと共有して何か変われるかどうか。受・発注者がそろって,担い手確保のための安定的な仕事の確保を目指す時代に向かっていかなければ真の革新はこない。建設業自体も変わらなければならない。例えば,社会保険の未加入の問題。数年前だったら,この業界では難しいかなという見方が多かった。しかし,業界がごく当たり前の産業になること,こういった最低条件の改革が,ようやくそれが進みつつある。その他の処遇改善,計画的な休暇取得なども変化が始まっている。フレッシュな人が入ってきて,新しい3K(給料,休日,希望)産業への大転換を目指す時代へ向かわなければならない。建設業が人を育てる先駆的な産業に変わってほしい。また,そういうことに向かう絶好の機会だ。内田戦後の建設産業のあり様を振り返ると,これまで担い手問題の構造的な変化にぶつかった時代が2回あった。戦後の基幹的農業従事者数の推移を見ると1960年の1,175万人から,10年ほどで700万人に急減している。ちょうどその頃列島改造ブームがやってきた。この当時,建設業にとって農家からの出稼ぎが貴重な労働力だった。建設産業は貴重な労働力の供給源が急速に先細りするという深刻な問題に直面することになったわけである。農業サイドでもこれは大変な問題で,59才以下男子の働き手220万人のうち100万人ぐらいが出稼ぎに行く。農業を支える基幹労働が崩壊しつつあるという議論がされていたようだ。ところが,まもなく高度成長が終わり低成長,安定成長期に入っていく。この時代には,景気の変動に対応する景気刺激策として公共投資が活用された。公共投資が追加をされて建設業が忙しくなるのは世の中の景気が悪い時なので必要な労働者はいくらでも確保できた。こうして,農業労働力の急減という大きな問題をこのときは何となくスルーできてしまった。これが1回目。2回目は,30年ぐらい前に19歳以下人口が減り始めて,これが労働市場に反映された時。1997年頃をピークに,29歳以下の建設業就業者が急激に減り始めている。深刻な状況に再び直面したが,その頃公共投資建設業の再生・革新の動向―人材(財)の確保と育成Winter2017建設業の経理5
元のページ